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11.日本を考えるための本の紹介2005/03/26 2005/03/27更新



○戦争関連

輸送船入門 副題:日英戦時輸送船ロジスティックの戦い
大内 建二 著 光人社NF文庫
     世界有数の高速輸送船を有していたが、大戦末には壊滅し日本は敗戦に向かったことを数量的に記載しています。他の戦争本でも輸送船の喪失が戦争に多大な影響を与えていることを記載していますが、正に本書で証明しており、戦記・戦争本の基礎知識としての必須本です。
     特に注記するが、輸送船で兵士を運んでいるが相当に劣悪な環境で、すし詰めだったため撃沈されると被害甚大であったとのことです。

日本はなぜ敗れるのか 副題:敗因21カ条
山本 七平 著 角川oneテーマ21
     主はフィリピンでの従軍記です。航空燃料として砂糖からブタノールを製造するために向かった小松真一氏の手記をもとにしています。著者自身もフィリピン従軍の経験があるそうです。
     ここでも、輸送の不備を第2章バシー海峡 として実質上の最初の章に示しており、日本がフィリピン決戦に備え送り出した輸送船がことごとく沈められた様を指しています。(バシー海峡は台湾とフィリピン間の海峡名である)
     さて、この本には、食料も与えられずフィリピンに放置された軍隊の組織崩壊が、西郷隆盛の西南の役や学生運動の終末に類比していることなど、日本組織が戦争の行き着くと所の具体例や類比は相当に述べられていると思います。
     このほかにも、名目上の数合わせ(員数主義)にコダワル日本組織の愚かさを指摘していますが、なぜに、この様なことに陥るのかについては特に原因の考察も処方箋も示されぬまま終わっています。日本組織が醜態を繰り返さないためにも原因と処方箋を考えてゆくことは日本人としての課題になるのでしょう。

石油技術者たちの太平洋戦争 副題:戦争は石油に始まり石油に終わった
石井 正紀 著 光人社NF文庫
     敗戦直前にインドネシアにあるパレンバンの石油基地で石油は余っていたそうですが、これは、日本へ輸送が出来なかったからだそうです。先の本の小松氏はムダにブタノール製造に向かったことになります。

なぜ日本は戦争を始めたのか
益井 康一 著 光人社NF文庫
     さて、この本で最も目新しく感じるのは、「第二部 盧溝橋事件の真相」でしょう。ここでは、日中戦争の原因である盧溝橋事件は、中国共産党が謀略として国民党政府と日本を戦わせるために日本軍に発砲したり爆竹を鳴らしたりした事が原因であるとしていることです。この挑発にのってしまう日本も悪いのではあるけれども日本が一方的に侵略をしたという考え方は間違いであると言うことが明らかになってきたことは重要でしょう。この話から、大東亜戦争を引き起こしたことを日本が中国共産党に謝罪するのはおかしな話であることがわかるのです。

日本人のための戦略的思考入門 副題:日米同盟を超えて
孫崎 享 著 祥伝社新書
     この本では、アメリカの日本に対する「核の傘」が嘘であることを示しています。そして、日本の防衛手段の核については、p226「しかし、現在は、独自の核兵器保有には反対である。それには、いくつかの理由がある。第一に、・・・・第四に・・・。また、それらの理由とは別に、最近、私は懸念していることがある。・・・。」と、否定的でなのです。
      ○日本論全般

    日本人の身体観
    養老 孟司 著 日経ビジネス文庫
       難解な本です。象徴的には見慣れない「脳化社会」なる用語があります。
       現代社会は脳の産物として構成され、人工化される。人工化につれて、予測の難しい自然が排除されると言うのが主題のようです。と、書いては見たけど分かりにくいですよね。本を読んで見てください。難解なところも相当に及びますが取り合えず読めるところだけでも読んでみましょう。得るものはあると思います。(薦めておきながら私もすべてを理解するに至っていません。)
       この中で、軍隊を内なる自然である身体を暴力により意識に呼び覚ます組織として見出していたようです。一方、その作戦は先の戦争関連本に描写されている通り脳化社会の道理である員数主義と官僚主義により動かされていたはずですが、本書ではその部分はあまり触れられていません。
       次に、本書では身体に留まらず、巨大人工物である都市についても言及されています。西洋の例として「城郭都市の街路は、すべて執拗に舗装されてしまう。」「そうした場所を訪れるごとに、私は人工空間への強い意思を感じる。」p156との記述があり、人工の象徴として永久構造物が都市を埋めるのは必然でるような記述がされているのです。
       本書は題名が示すとおり、身体観を扱うのですが、それは、社会制度、都市、組織と結びつき身体観ではなく「脳化社会」を明瞭にしてゆくことになり、「日本はなぜ敗れるのか」で示された日本組織の思考の形成に重要な考え方を提供しているのですが、日本の今後のあり方にまでは発展してゆかないのです。


    バカの壁
    養老 孟司 著 新潮新書
      「日本人の身体観」に比べ、対談や講演を編集者(他人)がまとめる形をとっているためか、平易でわかりやすくなっています。
       発効日は「バカの壁」の方が古いのですが、元本は「日本人の身体観」の方が古く、「バカの壁」では考え方も多少こなれ新しい部分も付け加わっているようです。
       「バカの壁」には教育とは個性の発揮ではなく「親の気持ちが分かるか、友達の気持ちが分かるか、ホームレスの気持ちがわかるか」共通認識を作ってゆくことではないかと言う考えかたや、機能主義と共同体的な悪平等がぶつかってしまうのが日本の社会であるとの考え方、旧来共同体社会の信賞必罰について戦前の学校でのストライキ(騒動)について退学者への対応や指導者としての進退の事例、欲をどう抑制するのか等が加わっており、日本社会へ処方箋も提示されています。ある程度、勝手にすごしてきた私に当てはめると厳しい内容ではあります。


    「木の文明」の成立 (上)(下)
    川添 登 著 NHKbooks
       和歌を始めとする歌謡や古事記、日本書紀、神社などから日本に発達した木造建築文明や日本社会の形成過程を述べたものです。
       本書は古墳時代に遡って、現代日本社会の形成を書いているわけですが、ここでも古墳は大地(自然)を押さえ込む人工土木構造物として書かれています。
       荒筋としては、古墳時代前の動乱が、防御の適正範囲となった分水嶺を境とした流域別の国(島)に収束し、この国単位の統合の象徴として古墳が形成され、その後、大和朝廷を盟邦とした国家連合が形成されたあと、大和朝廷を中心とした国家統一の際にその象徴として大和朝廷のアイデンティティである妻きり木造建築が木の文明へと繋がったのではないかという考え方です。
       大和朝廷の形成過程で、合議制が粉砕されたため今日の民主的な考え方が根付かない理由があると考えているようです。
       本書は、神話の世界に踏み込み多少思い入れも強いところがあるように感じられます。以下の本もあわせて読んでみることをお薦めします。

    歪められた日本神話
    荻野 貞樹 著 PHP新書
       日本神話を神話として読みましょうと言っている本です。
       特に日本論には関係ありませんが、「木の文明」成立 では神話解釈に大きな根拠を置いているため神話解釈の問題点を指摘している本書も考え方としてあわせて読むことをお薦めします。  外国に類似した神話があることや、神話は古代から伝わるもので多くの人が知っているため、政治的な歪曲をすると成文化当時でも疑いの対象となり成文化意味を成さなくなることから、神話に成文化当時の政治的な意味付けや実現象として意味付けることに疑義を唱えています。

    定訳 菊と刀 副題:日本文化の型
    ルース・ベネディクト 著 長谷川 松治 訳 社会思想社 現代教養文庫
       今更書くな!とか、反論書があるぞ!とか言われそうです。今のところ反論書も読んではいませんが私はなんとなく納得してしまったので載せておきます。訳が良いのか読みやすく思いました。
       本書は「罪の文化」と「恥の文化」という言葉が特に有名ですが、今回はちょと気になったくだりがp34にあったので引用します。「どんな破局に臨んでも、それが都市爆撃であろうと、サイパンの敗北であろうと、フィリピンの防衛の失敗であろうと、日本人の国民に対するおきまりのせりふは、これは前からわかっていたことなんだから、少しも心配することはない、と言うのであった。明らかにおまえたちは依然として何もかもすっかりわかっている世界の中に住んでいるのだ告げることによって、日本国民に安心を与えることができると信じたからであろう、」と書かれているのです。
       チョット前にはアメリカがイラク戦争をした時にも作戦の進捗を説明するときに「予定通り」を連発していたように思います。アメリカが日本化しつつあるのかと思っていたのですが、日本人の身体観にある「脳化社会(予測可能な人工社会)」と私は結び付けて少し納得しているのですがいかがなものでしょう。
        そう言えば最近、ライブドアの堀江社長が「予測範囲内である」と似たような言葉を連発していますね。


    ○各本を読んでの感想
     日本には、国として莫大な借金を作ってみたり、エネルギーと食料と言う日本の物理的弱点に目をつむってみたりと、その迷走ぶりに暗澹たる思いです。
     なんとかならないものかと本を頼りに、「日本を考える」とは言ってみたもののなかなかに難しいのです。 戦争関連の本は近年で最も大きな二次大戦という大事から極限状態における日本組織の反応の具体例として示唆に富んでいることの他に、日本がなぜ負けたのかと言う大命題を自ずと提起するため日本社会(日本人の思考)の弱点を明瞭にする効果があるものと思われます。
     しかしながら、第二次世界大戦の敗北を反省することで新たな社会のかてとしようとしたところで私だけが(個人が)反省しても社会が大きく変わるようにも思えません。(すこしづつは変わるのかも知れませんが)
     日本人の思考や思考が生まれる背景に踏み込んで考えてみてはというところなのですが、これもまだまだ中途半端な感じがします。取り合えず、日本の流域別の国の成り立ちや脳化社会と言う考え方が鍵になる予感はするところですが。
     この命題の答えは引き続き考えてゆく(永遠に?)ことになるため、ここに紹介する本やその内容も大きくかわる可能性があるものと思います。また、最近は、江戸時代の見直しも盛んのようですのでこれも加えたいと考えています。


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